伝説「おまん田」
伝説「おまん田」
平成元年7月号
諸木に鳥追いと云う所がある。腰山から諸木に至る峠から右に坂を登って杉林に囲まれた道、これを鳥追道と云い、4,5年前から減反政策と人出不足で田はほとんど山林になっている。この道を400mほど行った所から右に山道を登ると「おまん田」と云う所に出る。

昔諸木の村に「おまん」と云う近隣にきこえた美しい女の人が居った。ある日、村の寺に修業に来ていた若い僧の一目惚れし、日毎にその思いを募らせていたが、お寺まで逢いに行くこともできず悶々とした日を送っていた。
ある日、この僧が寺を辞して旅に出るのを見かけ、野良着のまま田の畦を走るように後を追って行く途中、ぬかるみに足を滑らせて田圃に落ち、助けを求めながらもがいているうちに、だんだんと身体が泥の中に沈んで行くのを旅に出た僧が聞きつけ、急いで村人を呼び助けに行ったがすでに遅く、頭にかぶっていた笠だけが見えたので引張ったが、笠だけが取れて「おまん」の姿は泥の中に消えていた。
あまりの事に唖然(あぜん)としていた僧も悲しさを耐えながら、「おまん」のためにお経を唱えつつ振り返り、振り返り旅の道を急いだとのことです。
「おまん」の話は、村の古老の間で語り継がれているが、「泣くな嘆くな諸木の源太、死んだおまんは帰りゃせぬ」との歌と、「おまん田」の地名を残してその場所すら決めることはできない。
昭和64年/平成元年目次
101.金の鳥を納めた「唐櫃石(からひついし)」の謎 昭和64年1月号
102.文殊の不動さん 平成元年2月号
103.座禅石と種子曼荼羅 平成元年3月号
104.雨乞いや豊作祈念のかんこ踊りの歌本 平成元年4月号
105.原始農耕時代の遺物か?川上の道祖神 平成元年5月号
106.黒住教名賀教会所 平成元年6月号
107.伝説「おまん田」 平成元年7月号
108.蔵骨器が多数出土した安田中世墓 平成元年8月号
109.笹谷峠に建つ三つの村境地蔵 平成元年9月号
110.伊勢路の宿 平成元年10月号
111.むかしの如来道 平成元年11月号
112.信仰の拠点に立つ地蔵姿の庚申(こうしん)さん 平成元年12月号