信仰と芸術の調和 安養寺の竜の棟瓦
信仰と芸術の調和 安養寺の竜の棟瓦
昭和63年4月号
昭和63年は辰(竜)の年。元旦の某新聞紙上に、名張市中村の陶芸家中村昇仙さん宅の精巧な竜の屋根瓦が写真入りで掲載されていたのを読まれた方が多いと思うが、阿保東部の安養寺〈浄土宗、住正(じゅうしょう)山・定聚(じょうじゅ)院〉の本堂大屋根正面の棟瓦に、立派な竜が彫られているのに気付く方は少ないかもしれない。
安養寺のは、中村さん宅のほど豪華ではないが、長さ約40cm、高さ約24cmの「立てのし瓦」21枚を連ねた、約8mの棟瓦の中央部に、大海原を西に向かって駆ける3m余の一頭の竜を見事に浮き彫りにしてある。
竜は中国で起源し、深渕にすみ、自由に天地を飛行するという、十二支中唯一の想像上の動物だが、慈雨を降らせ、水難を防ぎ、農水産物の豊穣をもたらすという信仰の対象として重んじられる。
また禅僧の方達の間では、一瞬現れたかと思うとすぐに消え去る、果たして現実に見たのかどうか迷わずにいられない「気」のような存在として大きな意味をもつそうだ。
この竜の棟瓦は、安養寺の大屋根を茅葺から瓦葺に吹き替えた大正2年(1913)に阿保東部の瓦屋、辻脇亀吉さんが、心を込めて製作したものだそうで、深海の竜が衆生を救うために、本尊阿弥陀様のお呼びで水面に立ち現れ、逆巻く波を乗り越えて、まさに昇天しようとする直前の姿で、信仰と芸術の調和の極地と見受けられる。
昭和63年目次
89.ゴルフ場の中に珍しい高尾・古田の古城跡 昭和63年1月号
90.勝福寺の五智如来 昭和63年2月号
91.霧生の八幡さん 昭和63年3月号
92.信仰と芸術の調和 安養寺の竜の棟瓦 昭和63年4月号
93.原型どおりに新築復元された老川如来の山門 昭和63年5月号
94.茶丸稲荷さん 昭和63年6月号
95.諸木の安楽寺 昭和63年7月号
96.桃山時代の華麗な建造物 大村神社の宝殿 昭和63年8月号
97.禅寺の山門に建つ 不許葷(くん)酒の碑 昭和63年9月号
98.滝仙寺(りゅうせんじ)の文化財 昭和63年10月号
99.霧生村内検帳 昭和63年11月号
100.日本三奇鐘の一つ 大村神社の虫食鐘 昭和63年12月号