信仰の拠点に立つ地蔵姿の庚申(こうしん)さん
信仰の拠点に立つ地蔵姿の庚申(こうしん)さん
平成元年12月号
柏尾の祐林寺前から福寿橋を渡り、里道を東へ約50m進むと、右側の路傍に一体の石仏が立っている。これは総高112cmの地蔵さんであるが、光背の向かって左に「天文14年巳乙11月1日」(1545)、右に「庚申之供養祐心」の刻字銘があり、庚申さんであることがわかる。
庚申とは干支の「かのえさる」のことで、この日に人の体の中に潜んでいた三尸(さんし)という三匹の虫が、人が眠っている間に抜け出て天に昇り、天帝に罪を告げるという説があり、これを封じるために、昔から庚申さんをまつり、庚申日の夜は眠らず語り明かしたという。

庚申さんの姿は、仏教の青面金剛像(しょうめんこんごうぞう)や神道の猿田彦の神、さては三匹の猿(見ざる、言わざる、聞かざる)などが多く、地蔵さん姿は余り例がなく大変珍しいし時代も古く、町文化財に準ずる貴重な石仏である。
今この庚申さんは、本田(本家)、藤田、松岡の三氏が世話をされ、年初(初庚申)と年末(終い庚申)に供養を営まれている。区の人達もよく参詣するらしく常に花が供えられている。
ここから急ながけを約10mのぼると、石の堂内に、総高137cmで石造の役行者(えんのぎょうじゃ)がまつられている。役行者は修験道の祖で、山岳信仰の象徴であり、柏尾区では年1回祐林寺で行者さんのおこもりをする。
この地点は、南方の十七明神社跡、若宮八幡の分社琴明神などへ通じる山道の入口でもあり、柏尾の信仰の拠点と言えそうだ。
昭和64年/平成元年目次
101.金の鳥を納めた「唐櫃石(からひついし)」の謎 昭和64年1月号
102.文殊の不動さん 平成元年2月号
103.座禅石と種子曼荼羅 平成元年3月号
104.雨乞いや豊作祈念のかんこ踊りの歌本 平成元年4月号
105.原始農耕時代の遺物か?川上の道祖神 平成元年5月号
106.黒住教名賀教会所 平成元年6月号
107.伝説「おまん田」 平成元年7月号
108.蔵骨器が多数出土した安田中世墓 平成元年8月号
109.笹谷峠に建つ三つの村境地蔵 平成元年9月号
110.伊勢路の宿 平成元年10月号
111.むかしの如来道 平成元年11月号
112.信仰の拠点に立つ地蔵姿の庚申(こうしん)さん 平成元年12月号