天狗の難所がトンネルに伊賀の中山
天狗の難所がトンネルに伊賀の中山
昭和56年12月号
お伊勢参りで栄えた頃の初瀬街道には、青山峠、西峠などの難路が多かったようだが、阿保(あお)と上津(こうづ)の旧町村界あたりも、文献では伊賀の中山、俗称は『天狗』の名で知られる旅の難所であった。
当事の様子は、明和9年(1772年)に松坂の国学者本居宣長が、吉野へ花見旅行したときの紀行文『菅笠日記』のなかで「河づらの伊賀の中山なかなかに見れば過ぎうき岸の岩村」という一首を詠み残している。この歌の意味は、川のふちの中山は、話にたがわずなかなかの眺めで、行き過ぎるのが惜しいくらいだと、天狗の住み処(か)にふさわしい奇観の感想をのべたものである。
現在の国道165号線は、川から離れたところに整備され、天狗岩そのものも雑木が生え茂り、奇怪さがなくなってしまったが、昔は断崖の直下に道があり、川も深く竜ケ淵と呼ばれていたという。天狗や竜が出るという伝説の地はすべてうす気味悪いところ、宣長一行のような男連れなら景色を楽しめただろうが、追いはぎなどの恐れもあり、女子供にとっては難所だったと思われる。

今の国道もカーブが急で車の難所となっていたが、本年度3億5千万円の工事費で真っ直ぐトンネルが掘られることになり、11月26日その起工式が行われた。貫通後は「中山トンネル」と呼ばれるだろうこの隧道の延長は165mになると聞いている。偶然だろうが粋な設計をしたものだと感心し、165号線の旅で「伊賀の中山」が再び話題となる日を、天狗ともども期待したい。
トンネル工事が始まった天狗の難所中山峠
昭和56年目次
7.伊勢参りの僧が再建した護国山天照寺 昭和56年1月号
8.阿保親王といわれる息速別名の墓 昭和56年2月号
9.寺と桜と滝とうたわれた名所の滝仙寺 昭和56年3月号
10.万葉の桜がしのばれる阿保山の桜 昭和56年4月号
11.小川内で発見された石器の原石 昭和56年5月号
12.奥鹿野で語りつがれた神穴伝説 昭和56年6月号
13.深瀬渓谷の隠れた名滝高尾観音瀑 昭和56年7月号
14.湯神楽の笹は水難除け水神まつり 昭和56年8月号
15.天正伊賀乱の緒戦地伊勢路掛田城 昭和56年9月号
16.青山最古の開拓地か羽根塚原遺跡 昭和56年10月号
17.秋まつりの伝統行事獅子舞い 昭和56年11月号
18.天狗の難所がトンネルに伊賀の中山 昭和56年12月号