弘法大師の三度栗
弘法大師の三度栗
平成2年11月号
栗の一種に三度栗といわれる木がある。これは一年に三度も結実するという珍しいもので、ここ福川(ふくがわ)と老川との間に「ハダメ」と呼ぶ所にあった。
むかし、弘法大師が諸国行脚の途中この地を通られた時、偶然に一人の里人が栗の実を拾っているのを見かけ、少々無心をしたところ、里人は弘法大師その人とは知らないが、快く求められるより多くを与えた。大師は非常に喜び「我この功徳に報いる為このあたりの栗の木には将来一年に三度ずつ実を結ばせやらん」と語り終って何処ともなく立去られた。
翌年から不思議にも栗が三度ずつ実るようになったという。
今から約200年前に書かれた書物の中にこの栗の話が「柴栗にして歳の8月実初めて熟し毬既に落ちて暮秋復実を結ぶ但し熟するものの多くはおばこなり云々」と記されてあり、かなり古くから珍木として知られていたようである。
この栗は一粒栗で最初の実はみのり後の二度目、三度目はみのらなかったようである。柴栗の変種で一度花が咲いて、夏から秋にかけて三度結実するという不思議は遂には、神仏の力として語り伝えられたものと思う。
今もこの辺りには小さな柴栗の木がそこかしこに見え、今こそ我が秋と大きな口を開けて茶色の実をのぞかせている。
平成2年目次
113.伊賀・伊勢の境 布引峠の今昔 平成2年1月号
114.伊賀の中山 平成2年2月号
115.諸木のふれあい広場 平成2年3月号
116.指形の道標が示す川上の大円寺 平成2年4月号
117.江戸の文化を今に伝える伊賀名句集 平成2年5月号
118.伊勢路の天王はん 平成2年6月号
119.諸木氏城跡 平成2年7月号
120.県指定文化財「たわらや」の看板類 平成2年8月号
121.県指定天然記念物 奥山権現のブナ林 平成2年9月号
122.名張の沃野(よくや)をうるおす新田水路 平成2年10月号
123.弘法大師の三度栗 平成2年11月号
124.初代斎王の頓宮跡か照皇宮神明社(しょうこうぐうしんめいしゃ) 平成2年12月号