指形の道標が示す川上の大円寺
指形の道標が示す川上の大円寺
平成2年4月号
阿保の町並みの西端、天理教の教会から羽根へ約60m下がった左側の里道分岐点に、高さ55cmの自然石の道標が、ひっそりと建っている。正面上部に方向を示す指形を、下部に「川上大し道」と刻んであり、年記はないが、明治初期頃の建立と思われる。
指形のある道標は、大和や伊勢では珍しくないが、伊賀では珍しく、名張市の4基あり、当町では、滝の2基とともに貴重な存在である。

古来阿保と羽根から川上へは山越えの4本の道を利用したようだが、明治期に川沿いの道が開けた頃の起点は、ここだったのだろう。
さて道標の示す川上大師とは、伊賀四国八十八ヶ所第24番の岩谷山大円寺(真言宗豊山派・本尊薬師如来)のことで、三国地志など旧記によれば川上に上・中・下の3つの寺が存在したのを、後に上と中の2寺を廃して、下寺に統合したようである。
この寺には、大和の大神(おおみわ)神社にあった大御輪(だいごりん)寺から移した延宝5年(1677年)奥書のある大般若経600巻や大般若経を守護する室町時代作の16善神の彩色画像その他厨子(ずし)、画軸など寺宝が多く、特に16善神は、補修すれば町指定文化財に匹敵する立派な画像である。
また、ここから県道を約600m上った右側の道脇に、中寺の名残の地蔵堂があり、超指定文化財で鎌倉時代の作といわれる、くすの木造りで丈161cmの地蔵菩薩立像が安置されている。大円寺は、ひなびて小さいながらも、数々の寺宝を有する寺院である。
平成2年目次
113.伊賀・伊勢の境 布引峠の今昔 平成2年1月号
114.伊賀の中山 平成2年2月号
115.諸木のふれあい広場 平成2年3月号
116.指形の道標が示す川上の大円寺 平成2年4月号
117.江戸の文化を今に伝える伊賀名句集 平成2年5月号
118.伊勢路の天王はん 平成2年6月号
119.諸木氏城跡 平成2年7月号
120.県指定文化財「たわらや」の看板類 平成2年8月号
121.県指定天然記念物 奥山権現のブナ林 平成2年9月号
122.名張の沃野(よくや)をうるおす新田水路 平成2年10月号
123.弘法大師の三度栗 平成2年11月号
124.初代斎王の頓宮跡か照皇宮神明社(しょうこうぐうしんめいしゃ) 平成2年12月号