深瀬渓谷の隠れた名滝高尾観音瀑
深瀬渓谷の隠れた名滝高尾観音瀑
昭和56年7月号
伊賀富士の名で知られる霊峰、尼ケ岳を水源とする前深瀬川の水は、高尾―種生―羽根を流れる間に山肌を削り、岩を噛んで、各所に深瀬谷と称される渓谷美を作り出しているが、高尾の黒淵では観音瀑の瀑布(滝)となって滔々(とうとう)と落下するのが見られる。
この滝は高さ6m、流れ幅は2mという大きさと景観を持ちながら、観光的には忘れられた存在で、いわば隠れた名滝である。しかし羽根の不動滝とともに三国地誌(江戸中期に藤堂藩がまとめた伊勢、志摩、伊賀、三国の地誌)にも載せられているから、昔は名勝地であったと思われる。
古来、日本には滝を神聖視する思想があり、那智滝のように自然信仰の対象となっている滝が少なくない。また、滝に打たれて行を積むことは、行者修行のひとつとして現在も各地で行われている。ここ観音瀑でも、近くに曹洞宗の見瀧山観音寺があるので、観音信仰と結びついてきた縁(えにし)と歴史が感じられる。

観音寺は江戸初期に創建された名刹で、御本尊の十一面観音は、ヒノキの寄せ木造り。台座、後輩を入れても、高さ1mあまりの小さい仏像ながら、裏面に「安阿弥陀」の銘が墨書され、鎌倉期の名匠「快慶」の作ではないかといわれている逸品である。
新緑に、そして紅葉に美しく映え、大古以来の水煙をあげる観音瀑を前に昔の人びとが祈ったであろう観音さまの御慈悲が末永く続くことを念じて合掌したい。
隠れた名滝観音滝、滝つぼは広くて暗い
昭和56年目次
7.伊勢参りの僧が再建した護国山天照寺 昭和56年1月号
8.阿保親王といわれる息速別名の墓 昭和56年2月号
9.寺と桜と滝とうたわれた名所の滝仙寺 昭和56年3月号
10.万葉の桜がしのばれる阿保山の桜 昭和56年4月号
11.小川内で発見された石器の原石 昭和56年5月号
12.奥鹿野で語りつがれた神穴伝説 昭和56年6月号
13.深瀬渓谷の隠れた名滝高尾観音瀑 昭和56年7月号
14.湯神楽の笹は水難除け水神まつり 昭和56年8月号
15.天正伊賀乱の緒戦地伊勢路掛田城 昭和56年9月号
16.青山最古の開拓地か羽根塚原遺跡 昭和56年10月号
17.秋まつりの伝統行事獅子舞い 昭和56年11月号
18.天狗の難所がトンネルに伊賀の中山 昭和56年12月号