熊野権現(ごんげん)奥の院さん
熊野権現(ごんげん)奥の院さん
平成6年10月号
三交バス滝線の終点で下車し、県道伊賀青山線を約300m行くと上切(かみきり)橋がある。
この橋のたもとから、右に分岐して木津川支流に沿って矢上林道がのびる。この林道は、森林面積約200町を有する桧の美林が有名である。林道を約300m登ると、滝熊野権現奥の院が祀られている。古い祭祀の形態をとどめる磐座=いわくら=(自然石)を中心にして、御神木(樹齢約300年の松)があり、永年里人が祈りを捧げ、護持につとめてきた。
この祭祀の姿は、三輪山、那智山が近畿の代表である。熊野信仰の盛んだった西暦900年~1200年頃の創祀だと思われるが、古代の人達の大自然への畏敬の念が強かったことが偲ばれる。
境内を流れる奥の院川に不動滝がかかり、磨崖仏(まがいぶつ)が彫られている。滝の集落は、耕地が少なく、古くから林業経営の意欲が盛んだった。古老の話によると、里人らが危険の伴う山仕事の行き帰りに、必ず奥の院さんにお祈りを捧げたとのこと。
大正15年に、境内の玉垣、手洗い場、石灯籠などが整備された。苔むした石段に立つと、先人たちの山を愛した心が偲ばれる。
磨崖仏の不動滝あたりは、もみじが多く晩秋の長めがすばらしい。下流にある御本社の熊野三所神社には、桃山建築の本殿がある。
近年、林道も改修され、山仕事も機械化が進んで、往時を思うと今昔の感を禁じえない。桧の美林に、今日も蝉時雨(せみしぐれ)が降る。
平成6年目次
161.種生天神社と小竹城跡 平成6年1月号
162.青山峠の今昔 平成6年2月号
163.霧生の灯籠はん 平成6年3月号
164.同所に三体三様の姿 羽根の庚申(こうしん)さん 平成6年4月号
165.街道いま、むかし 古田の笹峰峠 平成6年5月号
166.妙楽地の馬頭観音 平成6年6月号
167.行者山砦(とりで)跡 平成6年7月号
168.宝厳寺(ほうごんじ)裏山の霊場 二十一大師めぐり 平成6年8月号
169.街道いま、むかし 乃(野)木山(のぎやま)の道 平成6年9月号
170.熊野権現(ごんげん)奥の院さん 平成6年10月号
171.霧生高山林道の大日如来(だいにちにょらい) 平成6年11月号
172.初代の阿保駅 近鉄・比土(ひど)駅の今昔 平成6年12月号