町指定文化財 天照寺の石造五輪塔
町指定文化財 天照寺の石造五輪塔
平成3年7月号
霧生にある天照寺裏山に、鎌倉様式のおごそかで重々しい風格の石造作りの五輪塔がある。もとは寺僧墓地の傍らの松の木の下にあったが、50年程前に今の場所に移された。
地輪正面に「正平17年(1362年)2月23日…当寺開山…」との刻銘がある。正平年間(南朝年号)は、足利尊氏が京都に幕府を開き、義満が三代将軍となった頃までの25年間、京都を中心に世は乱れていた。特に正平3年には楠木正行、正時兄弟が幕府軍との決戦に臨むときで、如意輪堂の扉に鏃(やじり)で「返らじとかねて思へば梓弓なき数に入る名をぞとどむる」と辞世を書き残し戦死。
また幕府内での争いや尊氏、直義兄弟の仲違いなど。正平13年には尊氏の病死と激動の時代であった。「太平記」にも「又天下三つに分かれて合戦息む時あらじと世の人安き心も無りけり」と書かれた程である。
この五輪塔には江戸時代の書物「三国地志・伊水温故」などに、「当時に千方将軍の由緒有、准后記に霧生郷に千方将軍の墓所有としるす」など古くから藤原千方の墓であるとの伝説がある。天照寺の開基は、南朝年号延元元年(1336年)5月とあり、天照寺と五輪塔も激動の時代に誕生し、今日まで生きぬいた意義深い思いがする。
平成3年目次
125.川上の地蔵堂と菩薩立像 平成3年1月号
126.八柱神社の巨岩 平成3年2月号
127.霧生中山の道 平成3年3月号
128.天正の伊賀乱をしのぶ 小鴨(こがも)氏城跡 平成3年4月号
129.珍しい高尾の石室・石仏地蔵 平成3年5月号
130.妙楽地の秋葉さん 平成3年6月号
131.町指定文化財 天照寺の石造五輪塔 平成3年7月号
132.全国でも数少ない蔵王権現の石像 平成3年8月号
133.戦後開拓の歴史を刻む老ヶ野・古田・青山道路 平成3年9月号
134.奉供養 勧進橋の碑 平成3年10月号
135.霧生の鹿島神社 平成3年11月号
136.6,7世紀の代表的な墓 羽根・峯台(みねだい)一号古墳 平成3年12月号