諸木の子安地蔵
諸木の子安地蔵
昭和58年11月号
白い野菊の花を眺めながら腰山から諸木への町道をたどると、頭上の山腹を昔の人が歩いた古道が見え隠れしてきます。峠から見下ろすと眼下に静かなたたずまいが谷間に点在し、わずかに木々の色づくなかをひときわ高くそびえて見える木、ここ曹洞宗安楽寺の境内に大きな銀杏の木が、いま秋たけなわといいたげに色づき始めています。
安楽寺境内の地蔵さん

石段を上ると左側に瓦葺きの小さな社があり、そのなかに白布や赤布で作った涎かけを何枚もつけてもらった地蔵さんが安置されています。その昔近郷にちょっとは聞えた「子安さん(子安地蔵)」、近所のおじいさんの話によると、結婚してから2年も3年も子宝に恵まれない事は、女の人にとっては大きな悩みでした。
誰に相談することもできず、お医者さんといっても遠くて診てもらう事もできない時代に、この子安地蔵さんにおすがりしたら子宝に恵まれるとの言い伝えから、近郷近在からたくさんの人が同じ悩みを持ってお参りしたようで、なかには夫婦で願をかけ21日間続けてお参りした人もいたようです。
この地蔵さんの台座には「文化○年九月」とかすかに刻まれた年代が読み取れます。それから約180年間人間社会の苦楽を見続けたためか、また、永い間の風雪に耐えたせいか、やや輪郭がうすれて見えますが、今日も誰がお供えしたのかま新しい「涎かけ」と美しい秋の花、取り入れた新米とお菓子が備えられていました。現在のように進歩した時代でも、子安さんには色々な願い事をたびたびたのむようです。
昭和58年目次
29.幻の重要文化財羽根亀井家大邸宅 昭和58年1月号
30.青山町の北に眠る城氏朝妻堡 昭和58年2月号
31.伊勢の堺、伊賀齋王堺屋の祭祀場跡 昭和58年3月号
32.霊験あらたか小河内の金毘羅さん 昭和58年4月号
33.歴史散策の小道 阿保頓宮跡から七つ塚へ 昭和58年5月号
34.村の生活を守る境目塚 昭和58年6月号
35.堀抜水路と儀八翁 昭和58年7月号
36.滝の熊野三所神社 昭和58年8月号
37.阿保から老川如来さん参りの近道 八鉢道の今昔 昭和58年9月号
38.兼好ゆかりの薬師寺跡 昭和58年10月号
39.諸木の子安地蔵 昭和58年11月号
40.寿福の神さま下川原の弁天さん 昭和58年12月号