名張の沃野(よくや)をうるおす新田水路
名張の沃野(よくや)をうるおす新田水路
平成2年10月号

緑したたる山、清らかな水は、青山町に与えられた天恵のものといえ、沃野をうるおしています。高尾を貫流する前深瀬川(まえふかせがわ)の豊富な水は、出合(であい)の岩の尻から総延長13000m。延宝4年(1676年)の完工から310年余を経た現在も名張市の美旗(みはた)新田総200haの水田に注がれています。
藤堂藩は、伊賀の年貢拡張と農家の定着を企て、新田開発にのり出し、加納直盛と西島八兵衛を奉行とし着手しました。しかし、延宝3年小波田(おばた)大池が決壊し、水源が枯渇したため、急きょ高尾から水路を開くこととし、昼夜兼行で作業を開始。
種生(たなお)、川上、羽根の後背部の山々を縫って完成したのもので、深さ1m、幅1.5mの水路に絶えることの無い豊かな水が送られることになりました。
天然の岩盤をくり抜いた取入口には、天保6年(1835年)、さらに大改修を行なったとき、水神祠を祀り「村中大悦、施主川浪清十郎」の名が刻まれています。
昭和34年(1959年)、伊勢湾台風によって崩壊しましたが、大改修が行われた事業の経過を取水口の水路の壁面に刻み込んでいます。
このような深い山野に水路を開いた昔の人々の着想の確かさと技術の粋は、現代に大きな教訓を残しています。
平成2年目次
113.伊賀・伊勢の境 布引峠の今昔 平成2年1月号
114.伊賀の中山 平成2年2月号
115.諸木のふれあい広場 平成2年3月号
116.指形の道標が示す川上の大円寺 平成2年4月号
117.江戸の文化を今に伝える伊賀名句集 平成2年5月号
118.伊勢路の天王はん 平成2年6月号
119.諸木氏城跡 平成2年7月号
120.県指定文化財「たわらや」の看板類 平成2年8月号
121.県指定天然記念物 奥山権現のブナ林 平成2年9月号
122.名張の沃野(よくや)をうるおす新田水路 平成2年10月号
123.弘法大師の三度栗 平成2年11月号
124.初代斎王の頓宮跡か照皇宮神明社(しょうこうぐうしんめいしゃ) 平成2年12月号