街道いま、むかし 乃(野)木山(のぎやま)の道
街道いま、むかし 乃(野)木山(のぎやま)の道
平成6年9月号
三交バス高尾線の終点である「生活改善センター」で車を降りると、周囲には険しい山々が迫ってきます。
その稜線にひときわ高く連なる山々は、主峰である尼ヶ岳の直下に広がる尾高高原と呼ばれ、室生火山系特有の柱状節理(ちゅうじょうせつり)の絶壁や奇岩(きがん)が数多く望まれます。
県道青山美杉線から奥出橋を渡って西明寺(さいみょうじ)辺りの街道は、舗装された快適な道のりですが、民家をはなれて山道に入ると、昔ながらの急峻な坂道が延々と続いています。
この道は「立岩(たていわ)峠を経て伊勢太郎生(たろう)に通ずる間道(かんどう)あり」と古文書にも残された古道で、今なお地図には歩道として記入されていますが、通る人はほとんどありません。しかしこの道は奥一志を結ぶ最短ルートとして知られ、縁故関係も多く、古くからの交流や往来を物語っています。
この道は滝谷(たきたに)、之(野)木、尾高など、美しい渓流や奇岩を縫って造られたものとして知られ、元禄年間(江戸中期)に松尾芭蕉の高弟で甥(おい)に当たる山岸半残(はんざん)がこの地を訪れ、渓谷に映える紅葉の絶景に
「乃木に来て、目当ての違う紅葉哉(もみじかな)」と詠(よ)み、のちに「伊賀名所句集」に収められ、現在も残されています。
また、この道は幾度か改修が計画され、滝谷林道の中ほどに「山の幸と人の和を結ぶ」という青山町の記念碑が建てられていますが、全線の開通のメドはたっていないようです。
平成6年目次
161.種生天神社と小竹城跡 平成6年1月号
162.青山峠の今昔 平成6年2月号
163.霧生の灯籠はん 平成6年3月号
164.同所に三体三様の姿 羽根の庚申(こうしん)さん 平成6年4月号
165.街道いま、むかし 古田の笹峰峠 平成6年5月号
166.妙楽地の馬頭観音 平成6年6月号
167.行者山砦(とりで)跡 平成6年7月号
168.宝厳寺(ほうごんじ)裏山の霊場 二十一大師めぐり 平成6年8月号
169.街道いま、むかし 乃(野)木山(のぎやま)の道 平成6年9月号
170.熊野権現(ごんげん)奥の院さん 平成6年10月号
171.霧生高山林道の大日如来(だいにちにょらい) 平成6年11月号
172.初代の阿保駅 近鉄・比土(ひど)駅の今昔 平成6年12月号