伊勢路の宿
伊勢路の宿
平成元年10月号
国道165号線の農協給油センターを過ぎると伊勢路の集落である。国道を分岐して旧道に入ると、旧参宮街道(初瀬街道)の宿場町として繁栄した歴史を秘める町並みが、今に昔の面影をとどめている。
江戸時代末期から明治初年にかけて伊勢路の宿は伊勢側の垣内(かいと)の宿とともに難所青山峠の両袖の宿場として殷賑(いんしん)を極めた。当事は20数件の宿屋、商店が軒をつらねていた。今も徳田屋、大和屋、角屋などが往時を偲ばせてくれている。

明和9年(1772年)に、本居宣長が吉野旅行をしたが、伊勢路の宿松本五右衛門家で旅の一夜をあかしたことが菅笠日記にみえる。
青山三里の峠は初瀬街道最大の難所であった。大和の初瀬泊りの客は道程の都合上、名張で泊らず阿保宿伊勢路宿で泊ったようだ。宿のきれいどころが、屋号を染抜いた赤い前掛けをして中山橋のたもとあたりまで旅人を出迎えた。これから峠越えようとする者は英気を養うため、また、やっと越えてきた者は疲れをやすめるため、旅人たちは休泊の地を麓の伊勢路宿に求めた。大和屋には講看板(指定旅館札)が沢山保存されていて往時の参宮盛んだった様子が偲ばれる。
今旧峠道の下を近鉄電車のトンネルと国道のトンネルが走っている。車をすてて旧道を歩けば難所の跡が残っている。秋の早い峠みちは、今ススキの穂が秋風になびいている。
殷賑(いんしん)とは
活気があってにぎやかなこと。またはそのさま。繁華。
昭和64年/平成元年目次
101.金の鳥を納めた「唐櫃石(からひついし)」の謎 昭和64年1月号
102.文殊の不動さん 平成元年2月号
103.座禅石と種子曼荼羅 平成元年3月号
104.雨乞いや豊作祈念のかんこ踊りの歌本 平成元年4月号
105.原始農耕時代の遺物か?川上の道祖神 平成元年5月号
106.黒住教名賀教会所 平成元年6月号
107.伝説「おまん田」 平成元年7月号
108.蔵骨器が多数出土した安田中世墓 平成元年8月号
109.笹谷峠に建つ三つの村境地蔵 平成元年9月号
110.伊勢路の宿 平成元年10月号
111.むかしの如来道 平成元年11月号
112.信仰の拠点に立つ地蔵姿の庚申(こうしん)さん 平成元年12月号