文殊の不動さん
文殊の不動さん
平成元年2月号
県道伊賀青山線の北山バス停前、桜井商店の横を東へ入り近食青山農場を通って約3kmゆくと学問の神様、文殊の不動さんが祀られている。この道は、かつて北山から田代(大丸土地あたり)へ通う大事な道であり農耕の幹線でもあった。
文殊の不道さんは峠の老松に囲まれて東をむいて祀られている。明和8年(西暦1771年)の銘があるので、今から217年前に峠の見晴らしのよい処へお祀りしたのだろう。
昭和の初め、近鉄(参宮急行電鉄)の青山トンネル工事が始められたが、工事は難渋し事故が相次いだ。ある晩、工事監督が西北の方にありがたい神様が祀られているとの夢のお告げをいただいた。
早速手わけをして探したところ、文殊の不動さんであることがわかり、丁重なお祭りをして工事の無事を祈念したところ、昭和の大工事と云われた青山のトンネルが無事に完成したとの古老のお話がある。
近年造林がすすんで杉桧の美杉がひろがるが、昔はこのあたりは大事な草刈り場であった。牛をつないだ“牛つなぎ場”の跡も今に残っている。
文殊不動さんは、智恵をつかさどる菩薩…受験シーズンがくると、若いお母さんたちが淋しい山道を合格祈願にお参りする姿が見られる。農耕の歴史を秘める奥野への径を今も歩きつづけるのである。子を思う親の心は昔も今も変わらない。文殊さんの峠をわたる松風の音も、昔も今も変わらない。
昭和64年/平成元年目次
101.金の鳥を納めた「唐櫃石(からひついし)」の謎 昭和64年1月号
102.文殊の不動さん 平成元年2月号
103.座禅石と種子曼荼羅 平成元年3月号
104.雨乞いや豊作祈念のかんこ踊りの歌本 平成元年4月号
105.原始農耕時代の遺物か?川上の道祖神 平成元年5月号
106.黒住教名賀教会所 平成元年6月号
107.伝説「おまん田」 平成元年7月号
108.蔵骨器が多数出土した安田中世墓 平成元年8月号
109.笹谷峠に建つ三つの村境地蔵 平成元年9月号
110.伊勢路の宿 平成元年10月号
111.むかしの如来道 平成元年11月号
112.信仰の拠点に立つ地蔵姿の庚申(こうしん)さん 平成元年12月号