伝説「千方の笛吹き石」
伝説「千方の笛吹き石」
昭和61年7月号
霧生広出から高尾鈴又に至る高山林道を遡(さかのぼ)ること約1.3km、樹齢70年位の杉林を谷川に沿って急な坂道を登ると、千方の笛吹石と言伝えのある巨岩がある。

その昔、村上天皇の御代に藤原千方という将軍が天皇に謀反(むほん)をおこし、山法師(山注記、三河坊、兵庫の竪者、筑紫坊)等を従えて三国が嶽に立て籠った為に、天皇が征討軍を派遣して平定しようとしたが、藤原千方に従っていた山法師ら火遁(とん)の術、水遁の術などを使い神出鬼没の戦い、加えて天嶮要害の山城であったので、官軍多く討たれ、遂に退却しようとした。そこで討手の大将紀友雄が「草も木もわが大君の国なれば、いずくか鬼のすみかなるべき」という矢文を敵陣に射込むと、山法師らがこの歌を見て忽ち恐れ入り、いずことなく遁(とん)走した。
山法師らに捨てられた千方は三国が嶽を逃れて、伊勢の国に至り、家城の瀬戸が淵にて殺された。藤原千方が三国が嶽を離れるとき、この大きな岩の上で笛を吹いたと言伝えられている。この岩の高さ約3m、正面約5m、厚さ3m、正面から見ると刀で切り取ったようになっている。
この付近の地名は狼谷ふえいし山の名も笛吹き山とも言い、この山に他にもたくさんの巨岩があちこちに散在し、神出鬼没の山法師が今にも現れるのではないかと思う程、あたり一面に幽気を漂わせている。
昭和61年目次
65.高原の守り神 古田の市杵島神社 昭和61年1月号
66.伊勢路善福寺と藤堂作兵衛奉納の観音様 昭和61年2月号
67.薬師さん 昭和61年3月号
68.阿保宮道筋の「かんせい」地蔵と薬師堂 昭和61年4月号
69.天満神社の“珍しい山の神々” 昭和61年5月号
70.正治権現(しょうじごんげん)さん 昭和61年6月号
71.伝説「千方の笛吹き石」 昭和61年7月号
72.信仰と散策の浄域十七明神社跡付近 昭和61年8月号
73.旧峠道に建つ高座子宝地蔵 昭和61年9月号
74.一本松の地蔵さん 昭和61年10月号
75.河川の神 弁天様 昭和61年11月号
76.幻の温泉郷も含むなつかしの阿保小唄 昭和61年12月号