幻の温泉郷も含むなつかしの阿保小唄
幻の温泉郷も含むなつかしの阿保小唄
昭和61年12月号
昭和5年12月に参宮急行電鉄(略して参急、後に関急、近鉄と改称)が全通した。参急では阿保に温泉郷を開発しようとして、宮の渕北岸にボーリングを行い、良質の鉱泉が湧出した。
このとき阿保の故前田政雄氏が作詞したのを多賀静司氏が補作、芝高正蕉氏が作曲して、昭和8年の暮に小学校講堂で大発表会を行ったのが、なつかしの阿保小唄である。はじめの2節は既に掲載されたが、ここに全文を紹介する。
(花見)
春はさくらのつつじが丘に
誰を待つ夜の灯(ひ)がともる
※ サアサ、ヨイヨイ阿保の町(※以下各節略)
(夜桜)
山のぼんぼり灯の入る頃は 恋の花咲く丘恋し
(鮎狩)
清い流れの瀬の瀬の間(あい)を
あれさ見やんせ鮎おどる
(要石)
阿保のお宮の要(かなめ)の石は
地震魔除けの護り神
(参急)
お伊勢まいりの宿駅(しゅくば)の町を
いまは参急が夢やぶる
(虫食鐘)
思いつのれば虫食鐘(かね)も
昔偲(しの)んで鳴るのやら
(祭礼)
黄金みのれば大村まつり
神楽囃子(ばやし)の獅子見たや
(温泉)
宮の渕辺のすすきの影に
まねく温泉(いでゆ)の灯が恋し
温泉は戦争で中止となり、阿保の俵屋さんがこの鉱泉を毎日運び内湯として活用された。戦後民間資本が再び開発に乗り出したが成功せず、いつしか唄とともに忘れられてしまった。
昭和61年目次
65.高原の守り神 古田の市杵島神社 昭和61年1月号
66.伊勢路善福寺と藤堂作兵衛奉納の観音様 昭和61年2月号
67.薬師さん 昭和61年3月号
68.阿保宮道筋の「かんせい」地蔵と薬師堂 昭和61年4月号
69.天満神社の“珍しい山の神々” 昭和61年5月号
70.正治権現(しょうじごんげん)さん 昭和61年6月号
71.伝説「千方の笛吹き石」 昭和61年7月号
72.信仰と散策の浄域十七明神社跡付近 昭和61年8月号
73.旧峠道に建つ高座子宝地蔵 昭和61年9月号
74.一本松の地蔵さん 昭和61年10月号
75.河川の神 弁天様 昭和61年11月号
76.幻の温泉郷も含むなつかしの阿保小唄 昭和61年12月号